社内ツールをAIで内製した事例|エンジニア不在でも業務アプリで運用する方法
自社専用のツールが欲しいのに、社内にエンジニアがいない。
そんな会社でも、現場の担当者が業務アプリを自分たちで作って回している事例が出てきています。
最初の一本をどう選び、どこから外注に切り替えるか、いっしょに整理しませんか?
「この作業専用のツールがあれば、毎月の手間が一気に減るのに」。そう感じていても、社内にエンジニアがいないと、外注の見積もりを見て諦めてしまうことが多いものです。
ところが今は、専門の開発者がいない会社でも、現場の担当者が自分たちで業務アプリを作って運用まで回している事例が実際に出てきています。AIやノーコードのツールが、作る側のハードルを大きく下げたからです。
この記事では、エンジニア不在で社内ツールを内製した実在の事例を起点に、最初の一本に何を選び、どう作り、どう運用し、どこから外注に切り替えるかまでを順番に整理します。
「自社でも本当に回せるのか」を判断できる状態を、いっしょに作っていきましょう。
自社専用ツールが欲しい、でも社内にエンジニアがいない人へ
まず言葉の整理から。内製とは、外部の開発会社に発注せず、自社の社員が業務システムやアプリを作ることを指します。
一方の外注(外部委託)は、要件を伝えて専門の会社に作ってもらう従来のやり方です。
両者のいちばんの違いは、作る主体と、変更にかかる時間・責任の置き場所。外注は専門家が品質を担保してくれる一方、仕様変更のたびに見積もりと納期が発生します。
内製は自分たちで即座に直せる代わりに、保守と万一の事故対応まで自社で背負う点にあります。
なぜ今、内製が現実的な選択肢になったのか。背景にはIT人材の不足があります。多くの日本企業がDXを推進する人材の不足を共通の課題として挙げており(情報処理推進機構「DX動向2025」)、採用や外注だけに頼る進め方には限界が見えてきました。そこに、コードを書かずに業務アプリを組めるノーコードツールと、日本語の指示でツールを生成するAIが普及したことで、現場の担当者が自ら手を動かす道が開けたわけです。
要点この記事で押さえる順番
成立した事例を見て安心したうえで、最初の一本の選び方→作る手順→運用とリスク管理→外注への切替判断まで進みます。AIは万能ではないので、向く業務と向かない業務の線引きも一緒に確認します。
エンジニア不在で本当に成立した内製の事例
「理屈では分かるが、本当に非エンジニアで回るのか」。ここがいちばん気になるところだと思います。
公開されている導入事例から、業務・規模・成果がはっきりしているものを見ていきましょう。
経理の特殊な請求業務を、現場が自分で内製した例
文具・オフィス用品大手のコクヨでは、ビジネスサプライ事業本部が基幹システムでは対応できない毎月100件超の特殊な請求書発行業務を、ノーコードツールのkintoneで内製しました。その結果が、この経理業務の工数を約92%削減という成果です。
毎月100件を超える手作業が、現場の手で大きく圧縮されたわけです。
注目したいのは作り手です。事業本部の約7割にあたる約260名がツールを使い、試作を含め約90のアプリが日々の業務を支えています。アプリを作る権限を持つのは約20名で、担い手は営業・経理など各部署の現場担当者が中心です。
つまり、専任のエンジニアでなくても、業務を一番よく知る現場が自分たちで作って回しているわけです。
出典: kintone導入事例「コクヨ株式会社」(サイボウズ)
製造現場が日報から始めた現場DX
岩手県一関市で粉体塗装などを手がける製造業の光成工業は、2019年に同じくkintoneを導入し、現場主導で日報や受発注の管理アプリを内製しました。地域に根ざした、いわゆる中小の製造業です。
成果は数字に表れています。月70時間あった残業がゼロになり、なかなか上がらなかった日報の入力率は18%から81%へ改善、受注表まわりの業務効率も約1.5倍になりました。
特別なIT部門があったわけではなく、動画づくりが得意な社員や美術の資格を持つ社員が「楽しめる仕掛け」を作り、現場に定着させていった点が中小企業にも応用しやすいところです。
出典: kintone導入事例「光成工業株式会社」(サイボウズ)
身近な一業務から自動化した例
大きな事業本部でなくても、困っている一業務だけをツール化する入口もあります。たとえば問い合わせ対応を自社専用のAIチャットボットに任せ、よくある質問を自己解決へ誘導する取り組みは、カスタマーサポートの自社専用AIチャットボット事例で詳しく整理しています。
業種特有の手作業を小さなプログラムで置き換えた例としては、斎場の空き状況表示を自動化したプログラムの実例もあります。
いずれも「全社の基幹システムを刷新する」のではなく、特定の業務の手間を一点だけ減らすところから始めているのが共通点です。
事例から見える共通パターン
規模も業種も違いますが、成功している内製には共通点があります。下の表に整理しました。

| 観点 | 共通していたこと |
|---|---|
| 対象業務 | 定型・反復で属人化していた作業 |
| 始め方 | 全社一斉でなく一業務から |
| 作り手 | 業務を熟知した現場の担当者 |
| 定着 | 権限分散や楽しむ工夫で社内に普及 |
最初の一本に何を選ぶか
事例で成立は確認できました。では自社で始めるとき、何を作り、どのツールで作るか。ここを間違えると、最初の一本でつまずいて内製そのものが止まります。だからこそ、最初の見極めが肝心です。
内製に向く業務・一本目にしない業務
最初の一本に向くのは、Excelや紙で回していて、入力・集計・共有が属人化している定型業務です。日報、受発注、各種申請、顧客管理、在庫管理あたりが代表例で、コクヨも光成工業もここから入りました。
仕様が現場の頭の中にあり、ノーコードの標準機能で収まりやすく、失敗してもダメージが小さい。これが「向いている」と言える理由です。
逆に、一本目にしないほうがよい業務もはっきりしています。次の2つは、慣れてから手を付けるのが安全です。
注意最初の一本に選ばない業務
会計・給与・債権債務などの基幹領域
締めや監査、法令改正への対応責任が重く、既存のSaaSや外注が合理的です。
不特定多数の顧客が触れる対外システム
決済や大量の個人情報を扱う領域は、事故時の責任が非エンジニアの管理範囲を超えます。
ノーコード系か、生成AIにコードを書かせる方式か
作る道具は大きく2つの系統に分かれます。読者が迷いやすいのはここなので、用途で選ぶという原則で整理します。

ひとつはノーコード系。画面の部品を組み合わせて業務アプリを作る方式で、kintoneやGoogleのAppSheetなどが当てはまります。データの保存・権限管理・バックアップが製品側で用意されているため、複数人で長く運用する業務システムに向きます。
もうひとつは生成AIにコードを書かせる方式。たとえばClaudeに「こういう集計ツールを作って」と日本語で頼むと、その場で動くツールを組み上げてくれます。自分や少人数が使う単機能ツール、まず形にして検証したい試作に向きます。
その一方で、できあがったものの保守やデータ管理は自分たちの責任になりやすい点には注意してください。AIが業務を自律的に進める使い方はClaude Coworkを経営者向けに解説した記事でも触れています。
ちなみに料金感としては、Claudeを業務で使う場合、Claude Codeも含まれる有料プランがProで月額20ドル(約3,100円)から、上位のMaxで月額100ドル(約15,500円)からです(2026年6月時点・約1ドル155円換算/Proは年払いなら約17ドル)。ノーコード系は1人あたり月額数百円から数千円程度が目安になります(正確な料金は各サービスの公式ページでご確認ください)。
2つの方式の使い分け
| 観点 | ノーコード系 | 生成AIにコード |
|---|---|---|
| 得意 | 長期・多人数の運用 | 単機能・試作 |
| データ管理 | 製品側で担保 | 自己責任 |
| 引き継ぎ | 比較的しやすい | 工夫が要る |
| 向く一本目 | 日報・受発注等 | 個人用の補助ツール |
Claude Codeのようなエージェント型の道具で内製する流れは、今後さらに広がると見ています。
ただ道具が進化しても、何を作るかを決めるのは人間の仕事です。方式選びはあくまで手段で、出発点は「どの業務の、どの手間を減らすか」だと考えてください。
失敗せず立ち上げる5つの段階と、つまずく工程の突破法
作るものと道具が決まったら、いよいよ進め方です。いきなり完成形を目指さず、小さく試して直す。これが、内製を続けるいちばんのコツになります。
目的定義から本番までの5段階
立ち上げは次の5つの流れで進めると無理がありません。各段階に「つまずきやすい点」を添えておきます。

(1)目的定義
「誰の・どの作業を・どれだけ減らすか」を一文で書きます。機能から考え始めると道に迷うので、必ず業務の困りごとから入りましょう。
(2)ツール選定
前章の用途別の考え方で方式を決め、無料枠や試用から着手します。多機能なツールを最初から全部使おうとしないのがコツです。
(3)雛形づくり
ノーコードならテンプレートと項目設計から、生成AI方式なら「業務・入力・出力・守ってほしい制約」を具体的に書いたプロンプトから、たたき台を作ります。
(4)テスト運用
数名で1〜2週間ほど並行運用し、旧来のやり方と数字を突き合わせます。本番の全業務をいきなり載せ替えないのが安全策です。
(5)本番移行と運用設計
アプリ台帳に登録し、誰が管理し、どう更新するかを決めてから移行します。ここを省くと、作って放置の野良アプリになります。
メモ最小の機能で一度リリースし、使いながら直す。最初から完璧を目指さないほうが、結果的に早く定着します。
非エンジニアが詰まる工程と、その突破法
実際に手を動かすと、決まったところでつまずきます。先回りして対処法を挙げておきます。
プロンプトを書いても雛形がぼやけるとき。これは指示が抽象的なことが原因です。業務名だけでなく、入力する項目・出力する形式・してはいけないこと・使う人を箇条書きで渡すと、出力の精度が上がります。
生成されたものが正しいか判断できないとき。コードを読めなくても大丈夫です。レビューは読解ではなく、挙動の確認で行います。
- 実データを1件入れて、期待どおりの結果が出るか
- 想定外の入力を入れても、壊れたり止まったりしないか
- 顧客情報などを、社外へ送る作りになっていないか
この3点を動かして確かめれば、専門知識がなくても致命的な問題は見つけられます。
作った本人しか分からない状態になりがちな点も、作成意図と更新履歴をアプリ内と台帳にメモしておけば防げます。
作って終わりにしない、運用と安全の設計
内製ツールの価値が出るのは、作った後の運用から。同時に、内製ならではの落とし穴も、ちょうどここに集まっています。
セキュリティと責任所在という、内製の盲点
非エンジニアの内製でとくに注意したいのが、機密情報の扱いと事故時の責任の2点。どちらも、便利さの裏で見落とされがちなところです。
警告先に決めておく2つの線引き
AIに渡してよいデータの境界
顧客情報や契約書を個人向けのAIにそのまま入れない。業務利用では、入力内容が学習に使われない設定やプランか、データの取り扱い条項を必ず確認します。
事故が起きたときの窓口と報告ルート
外注なら契約で責任を切り分けられますが、内製は自社が責任を負います。対応の担当と連絡経路を、先に決めておくのが鉄則です。
機密データの線引きについては、実際に企業で起きた事故とその防ぎ方をまとめた情報漏洩の実例と業務利用のリスク回避策もあわせて読むと、社内ルールを決めやすくなります。
もうひとつの盲点が野良アプリ化。各人が勝手にツールを契約して作り始めると、どこに何のデータがあるか分からなくなります。対策は禁止ではなく「ルールのもとでの自由」。アプリ台帳での一元管理・作成者の登録制・権限ルールを整えるのが現実的でしょう。
つまずく前に知っておきたい、よくある誤解
内製を始める前に、ありがちな思い込みを正しておきます。
誤解こう思っていると失敗しやすい
「AIに任せれば全部できる」
目的の定義・データの整理・出力の検証は人間の仕事です。AIが速くしてくれるのは試行錯誤の部分です。
「内製は外注より単純に安い」
外注費は浮きますが、学習・作成・保守の社内工数と、事故時の自社責任が乗ります。費用は同じ費目で比べます。
「ノーコードなら何でも作れる」
大量処理や複雑な連携には限界があり、超えたら外注や受託開発が合理的になります。
やめどき・外注切替の判断軸と、御社での進め方
最後に、いちばん見落とされがちな「どこまで内製で、どこから外注か」の判断です。外注と内製を同じ費目で並べると、考えやすくなります。
外注と内製の比べ方
| 費目 | 外注 | 内製 |
|---|---|---|
| 初期費用 | 約100〜300万円 | 主に社内工数 |
| 月額 | 保守契約次第 | ツール利用料 |
| 改修 | 都度見積 | 自社で即日 |
| 責任所在 | 契約で明確 | 自社が負う |
小規模な業務システムをゼロから外注すると、おおむね約100万〜300万円が相場とされています(機能や要件で大きく変わるため、あくまで目安です)。内製ならこの初期費は社内工数に置き換わりますが、保守と責任は自社持ちになります。
だからこそ、安さだけを理由に内製を選ばないことが大切です。判断の軸は「スピードと自社業務への適合」に置き、堅牢性や重い責任が必要な領域は外部に任せる。そんな設計で考えてみてください。
内製を続けるか切り替えるかの目安も挙げておきます。処理する件数が大きく増えた・条件分岐が複雑になった・つなぐシステムが増えた・不具合の原因特定に毎回時間がかかる。こうしたサインが重なってきたら、ローコードや受託開発への切替を検討するタイミングです(数値の閾値は会社により異なるため、一例として捉えてください)。
事業の中核を担うほど育ったツールは、中核は外部の専門家と二人三脚で堅牢にし、周辺は内製で素早く回すという併存の形が現実的です。最初の一歩を何から始めるかは、中小企業がAIを何から始めるべきかの30日ロードマップも参考になります。
要点御社の業務に置き換えて考える
ここで紹介した内製は、特別な大企業だけのものではありません。定型業務に同じ悩みを持つ会社なら応用できる取り組みです。専門のエンジニアが社内にいなくても、自社の業務に合わせた実装は十分に可能です。
とはいえ、どの業務から手を付け、どこを内製し、どこを外部に任せるかの見極めは、AIツールの知識だけではなかなか難しいところ。私たちノーサイドは、AIとマーケティングの両面から各社の業務と集客まで踏まえて設計・実装まで伴走しています。
「自社のこの業務は内製でいけるのか」を整理したい段階であれば、無料相談でお気軽にご相談ください。
よくある質問
Qエンジニアがいない中小企業でも、AIで社内ツールを内製できますか?
Aできます。コクヨでは非エンジニアの現場社員がkintoneで約90のアプリを内製し、特殊な請求業務の工数を約92%削減しました。光成工業も現場主導で日報を内製し、残業を月70時間からゼロにしています。
Q最初に内製すべき業務ツールはどう選べばよいですか?
AExcelや紙で回している定型・反復業務(日報・受発注・申請・顧客管理など)が向いています。会計や給与などの基幹領域、個人情報を大量に扱う対外システムは、最初の一本に選ばないのが安全です。
Qノーコードと、Claudeなどにコードを書かせる方式は、どちらを選ぶべきですか?
A複数人で長期運用しデータを蓄積する業務システムはノーコード系(kintoneやAppSheet等)、自分や少人数が使う単機能ツールや試作は生成AIにコードを書かせる方式が向きます。後者は保守とデータ管理が自己責任になる点に注意します。
Q外注した場合と比べて費用はどれくらい変わりますか?
A小規模な業務システムをゼロから外注すると、おおむね約100万〜300万円が相場とされています。内製なら初期費は主に社内工数、月額はツール利用料に収まります。ただし保守と事故時の責任は自社が負います。
Q内製ツールのセキュリティや野良アプリ化はどう防げますか?
A禁止ではなく「ルールのもとでの自由」が有効です。アプリ台帳での一元管理、作成者の登録制、権限ルール、AIに渡してよいデータ境界の事前設定で、非エンジニアでも管理できる範囲に抑えられます。
Qどこまで内製で、どこから外注に切り替えるべきですか?
A処理件数が大きく増えた、条件分岐が複雑になった、連携先が増えた、不具合対応に毎回時間がかかる、といったサインが重なったら切替検討の目安です。中核は外部と堅牢化し周辺は内製で回す併存の形が現実的です。
Q作ったツールを属人化させずに引き継ぐには何を準備すればよいですか?
A着手時にオーナーと後継者を決め、作成意図と更新履歴をアプリ内と台帳に残します。数か月後に「誰が直せるか」を即答できる状態を保てれば、内製ツールは資産として回り続けます。