Case-Based Reasoningとは

Case-Based Reasoningとは、新しい問題を、以前に経験した似た場面(事例)を思い出し、そのときの情報や知識を使い回して解く考え方です。日本語の呼び名は事例ベース推論。解き終えた経験を、次の問題のための事例として残すところまでを、ひとつの流れとして扱うのが特徴です。

英語表記:Case-Based Reasoning(CBR)

日本語表記:事例ベース推論

4つの「R」で、何をする?

ノルウェーのトロンハイム大学のアグナー・アモット氏と、スペインの研究機関CSICに属する研究所IIIAのエンリック・プラザ氏は、1994年の論文で、この考え方の流れを4つの段階にまとめました。似た事例を探し出す(Retrieve)、その事例を今回の問題に使う(Reuse)、出した答えを確かめて直す(Revise)、役に立ちそうな部分を次のために残す(Retain)の4つ。論文の脚注は、これを「4つのRE」と覚えるよう勧めています。

使い回し方は2通り。似た事例の答えをそのまま写す使い方と、前回との違いに合わせて答えを手直しする使い方です。論文は、手直しまでできることを、典型的な事例ベース推論の特徴に挙げています。

3つ目の「確かめる」は、多くの場合、仕組みの外での作業。答えを実際に試すか、詳しい人に見てもらうからです。では、結果が出るまで時間のかかる仕事はどうするのか?論文は医療の例で、治療の成否が分かるまで数時間から数か月かかると書いています。その間は「まだ確かめていない事例」と印を付けて残しておく、という扱いです。うまくいかなかった事例も、同じ失敗を繰り返さないために残します。

ルールを書き並べる方式と、何が違う?

論文が挙げる違いは2つ。1つは、分野の一般的な知識やルールだけに頼らず、過去の具体的な場面の知識を使うこと。もう1つは、問題を1つ解くたびに経験を残すので、使いながら少しずつ学び続けられることです。論文は、事例ベース推論を機械学習の一分野ともみなしています。

論文は、実際の業務で使われていた例として、米ジェネラル・ダイナミクスのElectric Boat部門を紹介しています。船の建造で、配管に使う弁を選んで調整する仕事。知識ベースシステムで費用を減らせるかを試そうと、1986年にルールを書き並べる方式で作り始めたものの、想定外の問題に弱いことと、ルールの手入れの大変さがすぐに表に出ました。1988年に事例ベース推論での作り直しを検討し、1990年に業務での運用が始まりました。それまでのルールも捨てず、事例の整理と最初の事例集づくりに生かしています。1990年12月から1991年9月までに約2万件の問題を扱い、手作業のころより費用が約10%、金額にして1年足らずで約24万ドル減った、と論文は書いています。

過去の事例を探して見せるだけの仕組みも、事例ベース推論?

論文の時点で急速に増えていたのが、ヘルプデスク向けの仕組みでした。事例を探し出すところまでは同じですが、見つけた事例は答えを組み立てる材料にはせず、人が読む情報として示すだけです。論文はこれを、本格的な事例ベース推論への第一歩になりうるもの、と位置づけています。

いまは、社内の文書や過去の事例を検索し、その結果を生成AIの回答の材料にする仕組み(RAG)が広く使われています。仕組みは別物ですが、4つのRに当てはめると、どこまで回しているかが見えてくるでしょう。探して示すだけなら、最初のRまで。答えを確かめ、結果を事例として戻すところまでやって、はじめて4つが一周します。

Topic最初の事例ベース推論システムは、米国の元国務長官の出張と会談を覚えていた

1994年の論文によると、事例ベース推論と呼べる最初のシステムは、米イェール大学のジャネット・コロドナー氏が作った「CYRUS」です。中身は質問に答えるシステムで、知識として持っていたのは、米国の元国務長官サイラス・バンス氏のさまざまな出張と会談。人は以前の場面を思い出しながら問題を解き、学ぶ、というロジャー・シャンク氏の「動的記憶」の理論をもとにしていて、このシステムで作られた事例の記憶の仕組みが、その後のいくつものシステムの土台になりました。

Case-Based Reasoningに関するよくある質問

「似ている事例」は、何を手がかりに選ぶのですか?
1994年の論文が挙げる医師の例では、以前の患者を思い出すきっかけは大事な症状が似ていることで、患者の髪の色ではありません。何を手がかりに探すかを決めるのは、その分野の知識を整理する作業そのもので、論文はこれを中心的な課題としています。うまくいった事例につながった手がかりは重みを上げ、外れた事例につながった手がかりは重みを下げる、という形で、使いながら探し方を調整する方法も紹介されています。
類推(アナロジー)とは、どう違うのですか?
1994年の論文は、事例ベース推論を「同じ分野の中での類推」の一種ととらえられる、としています。一方、類推の研究の多くは、別の分野の事例から答えを移す、分野をまたいだ類推を扱ってきた、と整理しています。ただし、両者を同じ意味で使う研究者もいる、と断っています。

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