AlphaGo(アルファゴ)とは
AlphaGoとは、囲碁を打つためにGoogle傘下のDeepMindが開発したAIのことです。2016年3月、世界タイトル18回のイ・セドル九段との五番勝負に4勝1敗で勝ちました。打てる手が多すぎてコンピュータには当分むりだと見られていた囲碁で、専門家の予想より10年ほど早く人間のトップに並んだ出来事として知られます。
16万局の棋譜から、3,000万の盤面を学んだ
AlphaGoは、いきなり自分の頭で考え始めたわけではありません。土台になったのは人間の棋譜です。ネット囲碁サーバーKGSで6段から9段の強豪が打った16万局から切り出した約3,000万の盤面を教材にしました。1局のあいだに盤面は何百回も変わるので、16万局でも学べる場面はこれだけの数にふくらみます。ここで身につけたのは「この形なら人はたいていここに打つ」という勘のようなもの。そのうえで自分自身の別の版と何度も対戦し、負けた手を直していく強化学習で腕を上げました。打つ手を選ぶニューラルネットワーク、その局面の勝ちやすさを見積もるネットワーク、先を読むモンテカルロ木探索。この3つを組み合わせた点が、それまでのコンピュータ囲碁との違いでした。
「初めてプロに勝った」のはイ・セドル戦ではない
イ・セドル戦が「AIが初めてプロ棋士を破った対局」として紹介されることがありますが、これは正確ではありません。その5か月前の2015年10月5日から9日、AlphaGoは欧州王者のファン・フイ二段と五番勝負を戦い、5戦全勝しています。研究成果を載せたNature誌の論文が「コンピュータの囲碁プログラムが、ハンディなしのフルサイズの盤で人間のプロ棋士を破った初めてのケース」と書いているのは、この対局のほうです。では2016年3月のイ・セドル戦は何だったのか。相手が世界トップ級だった点が違います。ソウルでの五番勝負は世界で2億人以上が見守りました。
AIブームの号砲になった一戦
Nature誌の論文は、この達成を「少なくともあと10年は先だと考えられていた」と書いています。予想を10年縮めた勝利は深層学習の実力を世に示し、世界的なAI投資の加速につながりました。敗れたイ・セドル九段は、AlphaGoのある一手についてこう振り返っています。「AlphaGoは確率計算をしているだけの機械だと思っていた。しかしこの手を見て考えを変えた。AlphaGoは創造的だ」。対話型AIのChatGPTが広まる約6年前、すでにAIは囲碁の世界で人間を超えていたわけです。AIブームは突然始まったのではなく、こうした節目を積み重ねて高まってきました。
Topic「神の一手」を打ったのは人間のほう
イ・セドル九段が1勝を返した第4局。その78手目は打たれる確率が1万分の1とされる一手で、ここからAlphaGoは崩れました。この手は「God’s Touch(神の一手)」と呼ばれ、いまも語り継がれています。おもしろいのは確率の数字。AlphaGoが第2局で打った37手目も、同じ1万分の1だったのです。人とAIが互いに「まず打たない手」で相手を驚かせた五番勝負でした。
AlphaGoに関するよくある質問
- AlphaGoは今も対局しているのですか?
- いいえ。世界ランキング1位の柯潔九段を破った2017年5月の中国・烏鎮での対局を最後に、競技からは退いています。DeepMindは当時「これがAlphaGoとしての最後の対局イベント」と発表し、研究チームは病気の治療法探しや省エネといった、より一般的な問題を解けるアルゴリズムへ移りました。その流れで生まれたのがAlphaZeroやMuZeroです。
- AlphaGoは段位を持っているのですか?
- はい。イ・セドル戦のあと、AlphaGoにはプロ九段の段位が贈られました。コンピュータの囲碁プログラムがこの認定を受けたのは、これが初めてです。
- 囲碁はチェスと比べてどれくらい難しいのですか?
- DeepMindは、囲碁はチェスより「googol(10の100乗)倍」複雑で、盤面の組み合わせは10の170乗通りあると説明しています。知られている宇宙にある原子の数より多い数です。総当たりで先を読み切る方法が通用しないため、何十年も研究が続いたのにコンピュータ囲碁は人間のアマチュア級にとどまっていました。
- AlphaGoとChatGPTのようなAIは同じものですか?
- 別物です。AlphaGoは囲碁を打つことだけに特化したAIで、文章を書いたり質問に答えたりはできません。囲碁には勝ち負けというはっきりした採点があるので、自分同士で何度も打つだけで自動的に上達できました。一方、文章の良し悪しは正解が一つに決まらないため、同じやり方は使えません。共通しているのはニューラルネットワークという土台の部分です。