Executive Order 14110とは
Executive Order 14110とは、アメリカのバイデン大統領が2023年に署名した、AIの安全な開発・利用を促すための大統領令のことです。当時としては米国で最も包括的なAIに関する政府方針とされ、最先端AIの開発企業に安全性の報告を求めるなど、幅広い分野に指示を出しました。ただし2025年1月、トランプ大統領によって撤回されています。
正式名称:大統領令第14110号「安全・安心で信頼できるAIの開発と利用」
英語表記:Executive Order 14110 (Safe, Secure, and Trustworthy Development and Use of Artificial Intelligence)
何を定めたのか
署名は2023年10月30日。柱の一つが、とくに高性能なAIモデルの開発企業に、安全試験(レッドチームと呼ばれる、弱点をわざと探す検証)の結果を政府へ報告させることでした。あわせて、米国の標準づくりを担うNIST(国立標準技術研究所)に安全の指針を作らせるほか、プライバシー保護、雇用への影響、AIで作ったコンテンツの見分け方(電子透かし)など、扱う範囲は多岐にわたります。一方で、AI開発に免許を課したり、特定の用途を禁止したりはしていません。
大統領令は「法律」とは違う
ここで押さえておきたいのは、大統領令が議会の作る「法律」とは別物だという点です。大統領が行政機関に出す指示であり、次の大統領が方針を変えれば、撤回や上書きができます。実際、Executive Order 14110は政権交代とともに撤回されました。AIのルールが政治の動きで揺れ動くことを示す、象徴的な一例といえるでしょう。
撤回後も残る影響
撤回された今も、この大統領令が残した影響は小さくありません。安全試験の報告やNISTによる基準づくりといった発想は、その後の議論の土台になりました。後継として登場したのが、規制よりも開発の促進を重んじるトランプ政権の大統領令(Executive Order 14179)です。両者を並べると、米国のAI政策の方向転換がくっきり見えてきます。
TopicAI企業に報告を迫った「意外な法律」
この大統領令の特徴は、AI企業に安全試験の結果を政府へ報告させた点にあります。その根拠に使われたのが、本来は国防のための物資確保などに用いる「国防生産法」という既存の法律でした。AIを直接縛る新しい法律がないなか、すでにある強い権限を転用して最先端AIに網をかけた。この工夫自体が、当時のAI規制が手探りだったことを物語っています。
Executive Order 14110に関するよくある質問
- どんな種類のAIが対象でしたか?
- とくに計算規模の大きい最先端のAIモデルが、安全試験の結果を報告する対象でした。日常的に使うAIツール全般を一律に縛るものではありません。
- 日本の企業にも影響しましたか?
- 直接の規制対象は米国の大手AI開発企業でした。ただし安全試験を政府へ報告させるという考え方は、その後の世界のAIガバナンス議論に影響を与えました。
- 「14110」とは何の番号ですか?
- 歴代の大統領令に順に振られる通し番号です。法律の名前ではなく、どの大統領令かを見分けるための番号として使われます。