前向き連鎖とは
前向き連鎖とは、手元にある事実を出発点に「もし〜なら〜」というルールを繰り返し当てはめ、新しい事実を次々と導き出していく推論の進め方です。エキスパートシステムを動かす推論エンジンの2大方式の一つで、データ駆動型とも呼ばれます。1980年代のAIブームを支えた、いわば「考える手順」の基本形です。
事実が増えるたびに推論が前へ進む
有名な教科書の例に、ペットのフリッツの色当てがあります。「フリッツは鳴く」「ハエを食べる」という事実に「鳴いてハエを食べるならカエル」「カエルなら緑色」というルールを順に当てはめると、「フリッツは緑色」という新しい事実にたどり着きます。
ポイントは、結論の見当を先に立てないことです。新しい事実が手に入るたびに、当てはまるルールが選ばれて推論が自動的に進む。だから状況が刻々と変わる場面に向いています。
後ろ向き連鎖とは出発点が逆
対になる方式が後ろ向き連鎖です。前向き連鎖が集めた証拠から結論を浮かび上がらせる聞き込み型だとすれば、後ろ向き連鎖は先に結論の仮説を置き、それを裏付ける事実を逆算して確かめる型になります。何が言えるかを探すのが前向き、それは本当かを確かめるのが後ろ向き。出発点の違いが、そのまま得意分野の違いにつながるわけです。
どんな業務と相性がよいか
応用先としては、エキスパートシステムのほかビジネスルールエンジン・医療診断・機器トラブルの切り分けが知られています。取引データの監視のように、事実が流れ込み続けるたびに判定を走らせたい業務とは特に好相性でしょう。人がルールを書ける業務なら、生成AIを持ち出さなくても自動化できる。その選択肢を思い出させてくれる考え方です。
TopicNASAが作った前向き連鎖の道具は、今も無料で配られている
前向き連鎖の代表的ツールCLIPSは、1985年にNASAジョンソン宇宙センターで開発が始まりました。元の計画名は「NASAのAI言語」を意味するNAIL。完成したツールはパブリックドメイン(権利フリー)で公開され、誰でも無料で使えます。しかも2023年4月に新バージョンが出るなど、約40年たった現在も保守が続く長寿ソフトです。宇宙開発の現場が育てた道具が、静かに生き続けています。
前向き連鎖に関するよくある質問
- 前向き連鎖と後ろ向き連鎖は、実務ではどう使い分けますか?
- 新しい情報が次々と入ってくる監視やモニタリングの業務には前向き連鎖が、確かめたい結論や疑いが先にある診断・原因究明の業務には後ろ向き連鎖が向いています。
- 前向き連鎖は古い技術ではないのですか?
- 1980年代のエキスパートシステムで広まった考え方ですが、ビジネスルールエンジンなどの形でいまも業務システムに生きています。推論の進め方そのものなので、新旧を問わず通用する基本形です。
- 「データ駆動型」と呼ばれるのは、データドリブン経営と関係がありますか?
- 直接の関係はありません。ここでのデータ駆動は、手元の事実が増えるたびに当てはまるルールが選ばれて推論が進む、という動き方を指す技術用語です。