ジェボンズのパラドックスとは

ジェボンズのパラドックスとは、資源を使う効率が上がると、その資源の消費がかえって増える、という経済学の逆説です。英国の経済学者ウィリアム・スタンレー・ジェボンズが、1865年の著書『石炭問題』で石炭について論じました。2025年1月には、MicrosoftのCEOがAIに当てはめてXに投稿しています。

英語表記:Jevons paradox/もとになった本:The Coal Question(1865年)

ジェボンズは、何と書いたの?

『石炭問題』は、英国の石炭がいずれ掘り尽くされる心配を論じた本です。ChatGPTの公開(2022年11月30日)より150年以上前、蒸気機関が工場や鉄道を動かしていた時代に書かれました。当時よく言われていたのが、「石炭を効率よく使う技術が進めば、不足は乗り切れる」という見方。ジェボンズは、これに反対します。

「燃料を節約して使うことが、消費が減ることと同じだと考えるのは、まったくの混同である。実際はその逆だ」。よく引かれるのは、この一節でしょう。

理由として挙げたのが、鉄を作る炉の例です。炉1基が使う石炭が減ると、もうけが増えます。すると新しい資本が集まり、鉄の値段が下がって、需要が増える。炉の数が増えた分が、1基あたりの節約を上回る、という筋道でした。

蒸気機関の歴史も、同じ目で振り返っています。初期の機関は石炭を使いすぎて、実用になりませんでした。ジェボンズの言い方では、「石炭を消費しなかった。消費の割合が高すぎたからだ」。改良で効率が上がり、採算が合うようになって初めて、広く使われるようになったのです。

効率が上がれば、消費は必ず増える?

必ず、ではありません。ジェボンズ自身が、範囲を区切っています。

1つは家庭です。家庭の暖房で石炭を節約すれば、その分はおおむね後の世代のために残る、と書いています。逆説が働くとしたのは、工場など、ものを作る場面での節約でした。

もう1つは、業種ごとの差。1つの業種の中では、消費が増えるとは限らないと認めています。それでも、ある業種の発展はほかの業種を活気づけ、回り回って石炭の消費を増やす。これが彼の見立てです。

つまり決め手は、安くなったときに需要がどれだけ増えるか。節約した分を上回るほど需要が増えるときに限って、消費の合計は増えます。

AIの話で、なぜ持ち出されるのか

きっかけは、Microsoftのサティア・ナデラCEOの投稿です。日本時間の2025年1月27日、Xにこう書きました。「ジェボンズのパラドックスがまた起きた。AIが効率的で手に入りやすくなるほど、利用は急増し、いくらあっても足りない、ありふれた商品になっていく」。

中国のDeepSeekがAIモデル「DeepSeek-R1」を公開した2025年1月20日から、1週間後のことです。

経営で使える教訓は1つあります。AIの利用単価が下がっても、支払いの総額が下がるとは限りません。単価が下がると社内の使い道が広がり、利用量の伸びが値下がりの分を上回ることがあるからです。使った分だけ料金がかかる従量課金のサービスでは、なおさら。予算は、単価と利用量の掛け算で見積もっておくと安全でしょう。

ただし、ナデラ氏の投稿は見通しであって、AIについて確かめられた法則ではありません。ジェボンズ自身が条件を付けていたことも、あわせて覚えておきたい点です。

Topicジェボンズは、機械と人の仕事の関係にも触れていた

『石炭問題』には、石炭と並べて、人の仕事の話が出てきます。人手を省く機械は、入れた直後には働き手の仕事をなくす。けれども、安くなった製品への需要が増えて、やがて働く場は大きく広がる、という説明です。例に挙げたのは、当時広まっていたミシン。縫い物で暮らす女性たちは、ミシンで損をするどころか、それまで考えられなかった賃金を得ることが多かった、と書きました。税金や通行料を下げると収入の合計がかえって増える、という例も並べています。効率化が需要を増やすという見方を、ジェボンズは石炭だけの話とは考えていませんでした。もっとも、これは150年以上前の観察。いまのAIと雇用に、そのまま当てはまるとは言えません。

ジェボンズのパラドックスに関するよくある質問

ジェボンズは、この現象を自分で「パラドックス」と呼んだのですか?
呼んでいます。『石炭問題』の本文に「この逆説(paradox)がどう生じるかを理解するのは難しくない」という一文があります。ただし「ジェボンズのパラドックス」という呼び名は、この本には出てきません。
ナデラ氏は投稿で、何を根拠に示しましたか?
投稿に添えられていたのは、Wikipediaの「Jevons paradox」の記事へのリンク1本です。データや試算は示されていません。
ジェボンズは、どんな人ですか?
1835年に生まれ、1882年に亡くなった英国の経済学者です。『石炭問題』は1865年にロンドンのマクミラン社から出ました。

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