ISO/IEC DIS 25029とは
ISO/IEC DIS 25029とは、AIで強化したナッジを責任ある形で設計するための、定義・指針・要求事項をまとめる国際規格案です。ナッジとは、人が判断するときの思い込みやくせを踏まえて選択の環境を少し変え、行動の変化を促す仕掛けのこと。AIの仕組みだけでなく、組織としての進め方と、効果を測る主要な指標まで対象にします。

正式名称:Artificial intelligence — AI-enhanced nudging
策定委員会:ISO/IEC JTC 1/SC 42
AI強化ナッジは何を扱う?
ISOが公開する要約は、AI強化ナッジを、デジタル環境で届けるナッジ(デジタル・ナッジ)のうちAIで強化されたもの、と位置づけています。公開部分の用語定義では「AI技術を使って、人の判断や行動にさりげなく影響する働きかけを設計し、届けること」です。
規格案の要約には、責任あるメカニズムの指針と要求事項、関連プロセス、主要指標、例を含むとあります。「どんな画面にするか」に加え、「誰に何を促し、何を測って見直すか」を管理することが実務上の論点です。
2026年9月時点では発行済み?
いいえ。ISO公式ページによると、2026年4月10日にDIS登録、6月15日に投票開始、9月8日に投票終了と進んでいます。9月15日に確認したステージは40.60「投票終了」です。DISはDraft International Standard、つまり国際規格案を意味します。
投票期間の終了を、承認や正式発行と読み替えてはいけません。組織の方針や契約に取り込むときは、ISO公式ページでステージと版を再確認しましょう。投票結果の報告の後は、最終案(FDIS)へ進む、DIS投票をやり直す、担当委員会へ差し戻す、のいずれかに分かれます。
パーソナライゼーションとはどこが違う?
パーソナライゼーションは、利用者や状況に合わせて情報、並び順、推奨を変える方法です。変更した結果が特定の選択を促すなら、ナッジの論点と重なります。
見落としやすいのは、規格案が「提供する組織が意図していないAIナッジ」を別に定義していることです。行動を後押しするつもりがなくても、個別化した表示や並び順の結果として人の選択が一方へ流れていれば、この論点に入り得ます。「促す目的があるか」だけで線を引かず、結果として誰の選択がどう動いたかを見る必要があります。個別化の正確さとナッジの妥当性は、別の評価項目です。
企業は何を先に決める?
要求事項の本文は購入しないと読めませんが、公開部分の用語定義からも扱う論点は見えます。「子ども(18歳未満)」「年齢に応じた方針」「法令が定める保護対象の属性」、そして「倫理委員会(専門の倫理学者を少なくとも1人含む)」まで定義に並んでいます。子どもが使うサービスや、属性によって扱いが変わりうる場面は、特に慎重な点検が要るでしょう。
社内で今からできるのは、AIで表示や順序、通知を変えている箇所の棚卸しです。意図して仕掛けたものだけでなく、推薦や並び替えの結果として選択を動かしているものも含め、目的、対象者、使うデータ、別の選択をする方法、止める条件を1件ずつ書き出します。対象は顧客向けだけではありません。規格案は保護される個人の例として、消費者と並んで働く人も挙げています。従業員向けのシステムも棚卸しに含めてください。
効果を測るときは、AIが予測した行動だけで成功と判定しないこと。実際に望ましい選択をした人の割合、別の選択をする難しさ、特定の属性だけに不利益が偏っていないかを分けて測ります。行動が変わったことと、本人にとって良い結果になったことは別の指標です。
Topic「後押し」だけでなく「足止め」にも名前がある
規格案の公開部分の用語定義には、ナッジと並んで「スラッジ(sludge)」が載っています。定義は、人の判断のくせを踏まえて、選ぶまでに手間(摩擦)を加える種類のナッジ。参考文献には、『ナッジ』の共著者サンスティーン氏の著書『Sludge』も並びます。行動をそっと押す仕掛けだけでなく、手続きを面倒にして選ばせない仕掛けにも、規格案は名前を付けて定義を置いています。
ISO/IEC DIS 25029に関するよくある質問
- ISO/IEC DIS 25029を契約要件に書くとき、版はどう指定しますか?
- 文書番号だけでなく、DIS(国際規格案)であることと参照日を明記し、正式発行や改訂時の見直し条件を決めます。2026年9月15日時点では、発行済みの国際規格として記載しないことが重要です。
- AI強化ナッジと推薦システムは同じですか?
- 完全に同じとは限りません。推薦は候補を選んで表示する技術ですが、ナッジは行動を促す選択環境の設計を指します。推薦によって人の選択が特定の方向へ動くなら、狙っていたかどうかにかかわらず両者は重なり得ます。
- ナッジの効果はクリック率だけで測れますか?
- クリック率だけでは不十分です。目的に沿った結果か、別の選択をする自由が残っているか、特定の属性の人に不利益が偏っていないか、除外や差し戻しができるかも一緒に測ります。