フロンティアモデルとは
フロンティアモデルとは、その時点で最も高い能力を持つ、最先端の大規模AIモデルを指す言葉です。「フロンティア」は開拓の最前線という意味で、さまざまな用途の土台になる基盤モデルのうち、先頭を走る一群を表します。2023年7月に研究者と開発企業がそれぞれ定義を示し、2025年にはカリフォルニア州の法律が、数字で線を引いた定義を定めました。
誰が、どう定義した?
2023年7月6日、AIの統治を研究する機関や、Google DeepMind、OpenAI、Microsoftなどに所属する24人が、共著の提言論文「Frontier AI Regulation」を公開しました(所属先の見解を示すものではない、と論文は断っています)。論文は対象を「フロンティアAI」と名づけ、公共の安全に深刻なリスクをもたらすほど危険な能力を持ちうる、高い能力の基盤モデルと定義しました。危険な能力の例は4つ。専門家でない人でも生物・化学兵器を設計できてしまうこと、一人ひとりに合わせた説得力の高い偽情報を作ること、壊滅的な被害を生みうるサイバー攻撃、そして人間の制御をすり抜けることです。
同じ月の26日には、Anthropic・Google・Microsoft・OpenAIの4社が、業界団体Frontier Model Forumの設立を発表しています。こちらの定義は「いまある最も進んだモデルの能力を超え、幅広い作業をこなせる大規模な機械学習モデル」。危険かどうかには触れず、既存のモデルを超えているかどうかで線を引いた形です。
取り違えやすいのは、「フロンティアモデル=危険だと確認されたモデル」ではない点でしょう。論文が対象にしたのは、危険な能力を「持ちうる」モデル。2023年の時点では、十分に危険な能力を持つモデルはまだ見当たらない、とも書いていました。能力が高く、何ができるようになるかを事前に見通しにくい。だから先に名前を付けて備える、という順番になっています。
基盤モデルとの違い
基盤モデルが「幅広い用途に使える土台のモデル全般」を指すのに対し、フロンティアモデルはそのうち先頭にいる一群だけを指します。両者は別物ではなく、基盤モデルの中の先頭集団がフロンティアモデル、という関係です。先頭である以上、顔ぶれは入れ替わります。論文も、何がフロンティアにあたるかは時とともに変わると明記し、次の世代の基盤モデルはフロンティアにあたりうると想定しておくのが賢明だ、と述べました。
法律では、どこからがフロンティアモデル?
条文で定義した例が、2025年9月29日に知事が署名したカリフォルニア州の州法SB 53です。フロンティアモデルを「10の26乗回を超える計算量で学習した基盤モデル」と定めました。能力の高さを直接測るのではなく、学習に使った計算の量で決める方式です。あとから追加で学習させた分も、この計算量に合算されます。
10の26乗は、1のあとに0が26個並ぶ数。2023年の論文は当時の試算として、これだけの計算には計算機の費用だけで1億ドル前後かかる、と注記しています。論文がこの線を例に挙げた狙いは、小さな開発者や大学の研究を、はっきり対象の外に置くことにありました。
国や地域が変われば、言葉も線も変わります。EU AI法は「フロンティア」という言葉を使わず、近い対象を「システミックリスクを伴う汎用AIモデル」と呼びました。学習の計算量が10の25乗回を超えると、影響力の大きい能力を持つと推定する決まりで、カリフォルニア州より1桁低い線です。「フロンティアモデル」という言葉に出会ったら、どの文書の定義なのかを先に確かめましょう。
AIを使う会社には、何が関係する?
SB 53で義務を負うのは、モデルを開発する側です。フロンティアモデルを開発する企業のうち、関連会社を含めた前年の売上が5億ドルを超えるところは「大規模フロンティア開発者」とされ、重大なリスクをどう見積もり、どう抑えるかをまとめた安全管理の枠組みを、自社のサイトで公開しなければなりません。こうしたモデルを仕事で使うだけの会社に、この定義から直接の義務がかかるわけではないのです。
利用する側に関係するのは、調達の場面でしょう。開発企業が公開する安全管理の文書は、取引先を選ぶときの判断材料になります。AnthropicのRSP、OpenAIのPreparedness Framework、Google DeepMindのFrontier Safety Frameworkは、どんな危険を想定し、能力がどの水準に近づいたら対策を強めるかを、各社が自分で書いた文書です。なお、製品の宣伝に出てくる「フロンティアモデルを採用」は、先頭集団のモデルを使っているという意味にとどまります。安全性のお墨付きではありません。
Topic「10の26乗」は、2023年の論文に「たとえば」として出てくる
2023年7月の論文は付録で、規制する相手を決める簡単な方法の一つとして、「たとえば10の26乗回」を超える計算量で学習した基盤モデル、という線を例に挙げていました。同じ年の10月30日、米国の大統領令14110は、開発企業に政府への報告を求める当面の基準を10の26乗回に置きます(この大統領令での呼び名は「デュアルユース基盤モデル」で、2025年1月20日に撤回されました)。そして2025年、州法の定義にも同じ数が入りました。論文はこの方式の弱点も書いています。計算の効率は年々上がるので、同じ計算量で作れるモデルの能力も上がっていく、というものです。SB 53には、州の技術局が2027年1月1日までに、その後は毎年、定義を改めるべきかを勧告するという条文があります。数字で固定した「先頭」はいずれ古くなる。その前提が、法律の側にも組み込まれているわけです。
フロンティアモデルに関するよくある質問
- ChatGPTやClaudeは、フロンティアモデルにあたりますか?
- 製品名を名指しした一覧は、カリフォルニア州法の条文にも業界団体Frontier Model Forumの公式サイトにも見当たりません。手がかりになるのは同団体の加盟条件で、フロンティアAIのモデルを大規模に開発または提供できる力を示すことが求められます。2026年10月時点の加盟企業は、Amazon、Anthropic、Google、Meta、Microsoft、OpenAIの6社です。
- 「フロンティアAI」と「フロンティアモデル」は、別のものですか?
- 指している対象はほぼ重なります。2023年7月の論文と、同じ年の11月に各国政府がまとめたブレッチリー宣言は「フロンティアAI」、業界団体やカリフォルニア州法は「フロンティアモデル」という言い方をしています。細かく見ると範囲に差があり、宣言は害を生みうる特定用途のAIも含めますが、論文は特定用途のモデルを定義から外していました。