Watson(ワトソン)とは

Watsonとは、IBMが開発した、ふだんの言葉(自然言語)で出された質問に答えるコンピュータシステムです。2011年2月、米国のクイズ番組「Jeopardy!」で歴代の王者2人に勝ったことで知られます。名前は、IBMの初代CEO、トーマス・J・ワトソン・シニアにちなんだもの。いまは、IBMの企業向けAI製品群「watsonx」に、その名前が引き継がれています。

英語表記:IBM Watson/開発元:IBM/土台のソフトウェア技術:DeepQA

2011年のクイズ番組で、何が起きた?

対戦は2試合で、2011年2月14日から3日間にわたって放送されました。相手は、74連勝の記録を持つケン・ジェニングス氏と、獲得賞金が歴代で最も多かったブラッド・ラター氏。ChatGPTの公開(2022年11月30日)より、11年あまり前の出来事です。

結果はWatsonの勝ち。2試合の合計は、Watsonが約7万7千ドル、ジェニングス氏が約2万4千ドル、ラター氏が約2万2千ドルでした。優勝の賞金は100万ドル。IBMは対戦の前から、全額を慈善団体に寄付すると発表しています。

当時のWatsonは、部屋ひとつを占めるほど大きな機械です。IBMの説明では、10本の棚に90台のサーバーを収め、計算の中心になる部品(プロセッサコア)は2,880個ありました。対戦中、インターネットにはつながっていません。辞書や百科事典などを、あらかじめ自分の中に取り込んでいました。

Watsonは、どうやって答えを選んだの?

Watsonが組み合わせていた手法は、開発チームの論文によると100種類以上。問題文を分析し、答えの候補をいくつも挙げ、候補ごとに裏づけを探して点数をつけ、順位を決めます。

要になるのは「自信の度合い」です。別々の手法が同じ答えにたどり着くほど、自信は高まります。自信が十分に高いときだけ早押しのボタンを押し、足りなければ答えません。間違えると減点されるクイズなので、分からないときに黙る判断が勝敗を分けました。

ここまでの計算を、およそ3秒で終えます。最初からそうだったわけではありません。論文によると、開発の途中の版は、プロセッサ1つで動かすと1問に2時間かかっていました。2,500個を超えるプロセッサコアに仕事を分けて同時に進めることで、番組で戦える速さにしたのです。

ChatGPTのような生成AIとは、作りが違う

クイズで勝ったWatsonは、取り込んだ文書の中から答えの候補を探し、裏づけの強さで選ぶ仕組みでした。文章を一から書き出す大規模言語モデルとは、成り立ちが異なります。「Watson=ChatGPTの古い版」ではありません。

クイズのあと、Watsonの名前はどうなった?

IBMは、この技術を仕事の道具として売り出しました。2013年には、開発者がクラウド経由で使える形で提供を始めています。

医療の分野では、区切りがありました。2022年1月21日、IBMは、Watson Health事業に含まれていた医療データと分析の資産を、投資会社のフランシスコ・パートナーズに売ると発表しています。金額は公表されていません。IBMは同じ発表のなかで、Watsonと、より広いAI事業には引き続き取り組むと述べました。

2023年5月9日には、企業向けのAIとデータの製品群「watsonx」を発表。生成AIの土台になる基盤モデルを、企業が自社のデータで調整して使うための製品群です。IBMの公式サイトにあるWatsonのページも、「IBM Watson to watsonx(Watsonからwatsonxへ)」という題で、watsonxを案内しています(2026年10月時点)。

Topicクイズ王に勝ったWatsonが、「トロント」と答えた

完璧に見えたWatsonにも、有名なつまずきがあります。1試合目の最終問題、分野は「米国の都市」でした。いちばん大きい空港は第二次世界大戦の英雄の名前、2番目に大きい空港は同じ大戦の戦いの名前にちなむ、という問題です。正解はシカゴ。ところがWatsonの答えは、カナダの都市トロント。その答えには、疑問符が5つ付いていました。IBMの説明では、自信がかなり低かったことの表れ。この失敗を受けて、技術者の1人は、2試合目の収録にトロントの野球チーム、ブルージェイズの上着を着て現れた、と同社の沿革のページにあります。

Watsonに関するよくある質問

Watsonの開発には、どのくらいかかりましたか?
IBMによると、研究者のデイビッド・フェルッチ氏が2006年に社内で提案し、20人を超えるチームが5年かけて仕上げました。チェスの世界王者に勝ったDeep Blue(1997年)に続く、人間と機械の対決の題材を探していたといいます。
Watsonは何を読んで知識を得たのですか?
IBMによると、Wikipedia、百科事典、辞書、宗教の書物、小説、戯曲、著作権の切れた本を公開するProject Gutenbergの本などを、何年もかけて取り込みました。
「DeepQA」とは何ですか?
Watsonを動かしていたIBMのソフトウェア技術の名前です。仮説を立て、裏づけを集め、データを分析するのに使われました。開発チームの論文は、質問に答える技術の研究を進めるための土台として紹介しています。

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