形式ニューロンとは
形式ニューロンとは、1943年にウォーレン・マカロックとウォルター・ピッツが提案した、脳の神経細胞の働きをまねた世界初の数学モデルです。いまあらゆるAIの土台になっているニューラルネットワークの、いちばん最初の一歩にあたります。
英語表記:McCulloch-Pitts neuron / formal neuron
神経細胞を「しきい値スイッチ」に置き換える
脳の神経細胞は、ほかの細胞から信号を受け取り、その勢いが一定の強さを超えると自分も信号を出す、という働きをします。形式ニューロンは、この働きを「入力の合計があるラインを超えたらオン、超えなければオフ」という単純なスイッチに置き換えたものです。マカロックは神経生理学者、ピッツは論理学に通じた数学の天才で、二人は脳の情報処理を数式で表せると示しました。複雑な脳の働きを、思い切って単純な部品にまで削ぎ落とした点こそが画期的だったといえるでしょう。
ニューラルネットワークの出発点
この小さなアイデアが、その後のAIの流れを決めました。形式ニューロンを発表した1943年の論文こそ、人工ニューラルネットワークという研究分野そのものの出発点。やがて1958年には、データから学べるように改良したパーセプトロンが登場し、その延長線上に現在のディープラーニングが連なります。では、いまのAIブームの源流はどこにあるのか。たどっていくと、80年以上前のこの一枚の論文に行き着きます。ChatGPTの登場(2022年)よりはるか昔から、脳をまねる研究は静かに続いてきたのでした。
Topic12歳でラッセルに手紙を書いた共著者
形式ニューロンの共著者ウォルター・ピッツは、型破りな天才でした。学校に頼らず独学で論理学を身につけ、12歳のときには図書館で哲学者ラッセルの大著『プリンキピア・マテマティカ』を読み通し、その内容の誤りを指摘する手紙を本人へ送ったと伝えられます。ラッセルはこれに感心し、留学に招いたほど。ピッツは生涯まともな学位をほとんど持たないまま、およそ20歳でこの歴史的な論文を書き上げました。AIの礎は、こうした規格外の人物の手から生まれたのです。
形式ニューロンに関するよくある質問
- 形式ニューロンは、本物の神経細胞と同じものですか?
- いいえ。脳の神経細胞の働きを大胆に単純化した数学モデルで、本物のしくみそのものではありません。『入力が一定量を超えたら信号を出す』という要点だけを取り出したものです。
- 形式ニューロンは何ができて、何ができなかったのですか?
- 『AかつB』『AまたはB』といった単純な論理は表現できましたが、『どちらか一方だけ』にあたるXORという論理は、形式ニューロン1個では表せませんでした。この限界が、のちに層を重ねる研究へとつながります。
- 形式ニューロンは、データから『学習』したのですか?
- いいえ。形式ニューロン自体はつなぎ方が固定で、学習はしませんでした。データに合わせて調整しながら学ぶしくみは、1958年に登場したパーセプトロン以降に実現していきます。