物理記号システム仮説とは
物理記号システム仮説とは、1976年にアレン・ニューウェルとハーバート・サイモンが唱えた、「記号を操作するしくみがあれば、知能ある働きを実現するのに必要十分である」とする考え方です。記号を扱う機械こそが知能の正体だと位置づけた、記号主義AIの土台となった主張です。
英語表記:Physical Symbol System Hypothesis
記号を操作できれば知能になる、という主張
ここでいう「記号システム」とは、文字や数字のような記号を組み合わせて意味のあるまとまりを作り、一定の規則で操作して新しいまとまりを生み出すしくみのこと。ニューウェルとサイモンは、こうした記号操作こそが知能の本質であり、それさえあれば知的な行動を生むのに「必要かつ十分」だと踏み込んで主張しました。人間の思考も、コンピュータの計算も、根は同じ記号操作だという大胆な見立てです。これが1950〜70年代のAI研究を引っ張る旗印になりました。
のちの批判と、ディープラーニングの台頭
この仮説には、強い反論も寄せられてきました。哲学者は「人間の判断は、言葉にできない直観や身体の感覚に支えられており、記号操作だけでは説明できない」と指摘します。さらに決定的だったのが、記号を明示的に操作しないディープラーニングが、画像認識や翻訳で高い成果を上げたこと。記号操作が知能に「必要」だとは限らないという現実が見えてきたのです。とはいえ、この仮説がAIの進む道筋を半世紀にわたり方向づけた事実は変わりません。いまも「知能とは何か」を考えるうえで外せない論点でしょう。
Topicなぜ「仮説」とあえて呼んだのか
この主張が発表された論文には「経験的探究としてのコンピュータ科学」という題が付いています。ニューウェルとサイモンは、これを証明済みの真理ではなく、実験で確かめていくべき「仮説(hypothesis)」としてあえて差し出しました。コンピュータ科学を、数学のように証明で固める学問ではなく、物理学のように実験で検証する科学として捉えたわけです。1976年という早い時期に、AIを実験科学として位置づけた点に、二人の先見性がうかがえます。
物理記号システム仮説に関するよくある質問
- 物理記号システム仮説を唱えたのは誰ですか?
- アレン・ニューウェルとハーバート・サイモンです。1957年に万能の問題解決を目指した『General Problem Solver』を作った二人で、その研究の延長線上にこの仮説があります。
- なぜ「物理(physical)」記号システムと呼ぶのですか?
- 記号が、紙の上の文字でも電子回路の状態でも、何らかの物理的なパターンとして存在する点を強調するためです。頭の中だけの抽象概念ではなく、機械でも実現できる『物理的なもの』だと示しています。
- 物理記号システムの例には何がありますか?
- 記号を組み合わせて操作するしくみ全般が当てはまります。文字を使う言語、数式を扱う代数、チェス、そしてコンピュータのプログラムなどが代表的な例です。